✏︎エッセイ『ヒゲダンスナイト』全3話

ロンドンでバスキングをしていると、思わぬ人に出会うことがあります。

新しい出会い、そして感動の再会。驚きの連続ですが、実は一番驚くのは「知人の違う側面を見ること」。

友人として会う時はいつも元気いっぱいで笑顔なのに、通勤途中はシリアスな表情。時に普段は見せない悲しそうな顔をして歩いている人を見ることも。

そんな姿をバスキング中にみてしまうと、思わず見なかったフリをしたくなりますが、バスカーはどうしても道ゆく人たちに見つかってしまって隠れることができません。

ロンドン在住デイブ(仮名)、職業はジャーナリスト。パブで出会った友人であるデイブの意外な姿をバスキング中に見てしまったハレルヤ。

そして二人が取った行動とは・・・

*ロンドンのグリーンパーク駅で起こった珍事件の記録です。イントロダクションでは、パブの側面をご紹介します。

登場人物は仮名になります。

こちらは過去に掲載していたものになります。サイトオフィシャルサイトのリニューアルに伴いエッセイページを作ったので、そのリンクフォーマットとしてこちらのブログに再アップしています。このブログの投稿日時は全く本文とは関係ありません。

(エッセイのためかなり長文です。ブログ観覧としてページに訪れた方はご遠慮なくスキップしてください。)

 

「ヒゲダンスナイト」

第1話《パブはミラクル》*2018年執筆

 

渡英からしばらくの頃は、習慣的に行っていたジャムセッション巡り。

今宵は東、明日は南、週末はセントラル、いやあのプレイスにも行きたい、そう考えると体も足りないほど存在していたセッションプレイス。

いつからか、セッション会場も少なくなっていた。

 

ロンドンには、ブルーズやジャズのライブセッションを行っている店が沢山有る。

とりわけブルーズはメッカとも言える。

ブルースのプレイスは歩けばすぐさま棒にあたる確率で存在し、時代、世代を問わず、プロ、アマチュアの皆誰もが共存して楽しめる演奏会場が本当に多い。

 

しかしながらジャズを演奏できる店は年々と激減して行き、現在では老舗を覗くそのほとんどのジャズバーが店を畳んでいる状況である。

それでもディープなジャズファンや、クレバーなジャズミュージシャン達が沢山居る。彼らの心を揺さぶるような店は、小さくともその場所を残し続け、長くひっそりと輝き続けてそこに存在する。

そんな「皆の憩いの場」として長く存在しているジャズバーで出会った友人の話しをする前に、まずはパブについてお話ししたい。

 

ブルーズやジャズを演奏するためにミュージシャン達が集う店は、ライブハウスとは言いがたく、どちらかというとパブに近い。

パブそのものを、曜日によってライブミュージックのプレイスにしてしまう店もたくさん存在する。

パブは、日本でも見られるような、スポーツ観戦ができるイングリッシュパブそのものの雰囲気の内装で、概ね人々の想像通りである。

違うのは、早朝から営業しているので、イングリッシュ・ブレックファストから、リキッドランチ(ビアだけで済ますランチ)、ティーブレイク、そして夜のドリンクを楽しむ場として人々からフル活用とされる場であり、スポーツ観戦のみならず、前述のように「音楽プレイス」としても愛されている。

 

イギリスのパブは社交場とは良く言うが、これは本当の話だ。

パブで隣に居る人はその瞬間に皆家族になる。

よく日本人留学生が、「昨日パブでナンパされて」などと言う事もあるのだが、それはナンパではない事がほとんどだ。

日本で言うところの「バー」や「パブ」は酒場というイメージが強いためか、やはりそこにはナンパや無礼講の雰囲気はある。

イギリスのパブは少し異なり、酒場ではなくあくまで社交場、なのである。

可愛いな、と思う異性に声をかけることはあるかもしれない。しかし、それはナンパではなく「空間の共有」である。やはり、同じパブ時間を過ごすのであれば、少しでも話しが合う人と時間を過ごしたい。その入口が、好みの容姿ということもあるかもしれないが、ナンパとは少し違うのである。

同じ場所、時間を共有している事で、パブにいる人々は皆ファミリーとなる。声をかけるのはご近所挨拶と考えた方が正しい。

また、彼らから執着される事もないので、適当に会話を終わらせれば、三分から五分程のご機嫌伺い程度の時間でお付き合いは終了される。

パブでイギリス人に声をかけられても、怯む事無く挨拶を交わし、しばし会話を楽しんで欲しい。

何を話して良いのか分からなければ、とにかく天気の事でも話しておけばよい。

 

「イギリス人の友達を作るにはどうすればよいのか」私はそんな質問を何度も何度も日本人留学生に問われる。

しかし、そんな質問を投げかけてくる方は、ほとんどと言って良いほど現地で知り合った日本人の友人と行動を共にしている。

イギリス留学をしている短い期間の中、同じ日本人同士で行動をしているのであれば、イギリス人の友達を作るという目標は少しハードルが高いのではないかと思う。

 

どんなに英語が得意であろうとも、お国や文化の違う者同士、そしてネイティヴスピーカーとそうでない者との壁というのは瞬間的に越えられるものではない。

我々がイギリスの文化に慣れ、そして長い時間をかけてネイティヴに近づいて行くほかないのだが、帰国子女でない限り、私たちがネイティヴスピーカーになるのは難しい。

訛りがあろうと、英語が下手であろうと「ネイティヴと付き合う」という事を一番に大事にする事だと、私は思う。

とは言え、そう簡単にネイティヴのお友達なんて作るのは無理、そう思うだろう。しかし、簡単な方法がひとつだけある。

それは、一人でパブに行く事。

これが、友達を作る一番の近道であると私は断言する。

 

パブはイギリスの社交場と言われるだけあり、パブにはその客層の99パーセントがネイティブ英語を喋るイギリス人で構成されているように思う。

孤独に彷徨う異邦人と同じく、一人でふらっと飲みに来ている者が大変多い。

そういう場の中に溶け込み、大胆に会話を楽しんでみればよいと思う。

ちなみに、これらは成人に向けてのお話しなので、当然ながら未成年はパブには入れないしドリンクも頂けません。

 

パブは、朝から夜まで延々と空いている。深夜は営業はしていないので、23時から24時の間に閉店されることが多い。深夜に遊べる場所というのはごくわずか、ほんの一部であり、ほとんどの人たちの夜遊びは翌日を迎える前に終わる。

ブレックファストを取る場所として訪れる人々や、ランチに訪れるビジネスマンも夜同等に多いので「カフェ」という感覚の方が近いだろう。

パブは終始スリにさえ気をつければ、比較的安全な場所だ。

パブに滞在中、大抵一度や二度は周囲のイギリス人が挨拶程度の言葉を掛けてくれる。自分の身を自分で守れる余裕を持ってドリンクを楽しんでいれば、一人でも十分に楽しめる。

 

反対に、クラブには大変注意してほしい。

クラブが大好きなイギリス人はとても多い。しかし外国人の客も多く、ほぼ半分はヨーロッパやアジア等からの旅行客や滞在者というのが、ロンドンのクラブの客層である。

ヨーロッパやアジアの人々が多いという部分は別に良い。少々注意が必要なのは、その客層に旅行者や短期滞在者が多いという事である。

人間は自分の従来の居場所ではなく離れた場所へ行くと、それが善かれ悪しかれ、大胆な行動を取れてしまう事が多い。

 

ありがちな落とし穴は、イギリス英語をリアルに学ぶためにボーイフレンドでも作りたいわあ、なんて思っていたところ、クラブで青い目に金髪の男子に声をかけられ、つい良い気分になりその夜のお供をしてしまう。

これも英語を学ぶため、英語圏のボーイフレンドを作るためと気が緩んだにも関わらず、実はそれが英語圏出身ではない、非英語圏の金髪ボーイだったということが、朝起きて気付くという悲しい現実が待ち受けている。よく聞く話しだ。

 

ヨーロッパ諸国の方々が私たちをアジア人一括りで見るのと同じく、私たちにとっても金髪青年がどの国の出身か等とは中々見抜く事ができない。

周りは決して良い人々ばかりではなく、中には「英語を学ぶために英語圏の友達を作りたい」という純真な心につけ込み、不埒な心を持って夜遊びに来ている者だって居る。これが何より危険なので注意したい。

解決策としては、クラブで好みの異性に声をかけられたら次回のデートの約束だけにしておこう。そして、一緒にクラブへ向かった仲間の元へ戻り、大勢ではしゃいでその夜を楽しんで欲しいと思う。

 

あくまで個人的な趣味ではあるが、純粋に音楽と会話を楽しむならば私はパブをお勧めしたい。

冒頭で申した通り、ブルーズやジャズのジャムセッションはパブで行われていることが多い。

その場の雰囲気はパブの社交場的なそのものであると共に、客層もネイティブだ。ふらりと一人で客席で飲んでいる者が多い。そして、その内半分の客は、毎週同じ曜日、時間帯に現れる常連客だ。

常連客にとっては、パブが音楽演奏の日であろうと無かろうと関係ない。パブが好きでそこへ行く。しかし、音楽演奏があるとより盛り上がるのも確かだ。

 

客席には、セッションへ訪れたミュージシャンもいる。自分の演奏の出番を待つために彼らは客席に紛れ込んでいるので、板の上の人達も客席の人達も関係なく皆が入り乱れている。

中には著名なミュージシャンが客席にひょっこりといることもあるが、そこに敷居はない。パブではその店に居る全員が知り合い、といった空気になる。

 

彼らは、ふとした時そこ(パブ)が恋しくなり、何故かその場所へと戻りたい、という衝動に駆られる。

腕ならし演奏と謳ってジャムセッションに訪れるミュージシャン達だが、実はそれはただの名目上で、その場に訪れるミュージシャン仲間やお客さんにまた会いたいと言う気持ちも強い。

そのせいか、セッションで顔を合わせるメンツはほとんどが知り合いだ。皆が何年も何年も、同じ板の上で演奏を続けている。それはまさに家族といった風景である。

 

もし海外で演奏をしてみたいと考えているなら、是非一度、パブで行われているセッションに参加して欲しい。

参加しなくても、顔を覗かせるだけでも何か新しい世界が始まる可能性だってある。

音楽繋がりの仲間が増えていくであろうし、もしかしたら、隣にいたクールなロックおじさんが実はあの超有名なUKバンドのギタリストだった、なんて事も、ロンドンのパブでは起こり得る事だ。

 

パブへの一歩から、イギリス生活の新たなストーリーが始まるかもしれない。

 

(2ページへつづく)